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先日夜の井の頭公園に行ったときのイメージでお話書きました。 週末の暇つぶしにどうぞ。 ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨ 深夜。 雨上がりの井の頭公園は 霧がかかって幻想的であった。 ごく一般的な高校生の龍之介は 悶々と眠れない夜、ときどき家をそっと抜け出し 自転車で井の頭公園に散歩に行く。 思春期の学生の仕事といえば 悶々とすること、これに尽きる。 龍之介は日々正しく学生の本分を全うしていた。 井の頭池にかかる七井橋で自転車を降り 橋の手すりにもたれながら龍之介はポケットから携帯電話を取り出した。 悶々体制は完了だ。 「あー、やっぱり返信来てねえ」 龍之介はボランティア部の部長・通称ルミルミに 「嫌いではない」と言われたことがあり、 それを心の支えにしていた。 なぜボランティア部かと言えば それはルミルミの可愛さにつられたのである。 女子の可愛さにつられるのもまた学生の本分である。 ボランティア部は可愛いルミルミ部長とそのとりまきの男子部員、 あとは不細工の女子部員で構成される。 女子を美人不細工で二分類するのは 学生というより男の本能であるから仕方がない。 「やっぱりこのガラケーがいけないんだよな」 いまどきの学生さんのコミュニケーション手段は スマホdeラインというのが主流である。 「ガラケーだから、連絡がつきにくいんだよな」 モテないのを外部要因のせいにしたがるのも 若者の特権である。特権階級である。 壊れたら買い替えても良い、つまり壊れるまでは使え という親の方針に龍之介は逆らうことができないでいる。 「池に落としたって言おうか」 龍之介は本気でないながら深緑色のガラケーを 井の頭池に向かって投げるジェスチャーをした。 ビーービーービーー。 着信のために突然震え始めたガラケーに 驚いてうっかり本当に池に落としてしまった。 「まずい! いまの着信はルミルミからだったかもしれないのに」 どうしようどうしよう、そうだ何か長い枝を持って来て池の中を探って・・・ と考えていると龍之介のガラケーを飲み込んで再び静かになっていた水面に 波紋が広がりかなり大きな物影が見えた。 「え。魚?」 ざばばばばば。 龍之介のいるところからほど近い水面から 何かが出て来た。 見た感じ魚や両生類などの一般的な水生生物ではない。 見た感じカッパだった。 逃げた方がいいかととっさに思ったが なんとなくコミカルな雰囲気に思わずそのまま立ち止まっていた。 腰が抜けていたから動けなかった、というのも一理あった。 子供のようなおじさんのようなカッパは水面に腰から上だけ出ていた。 そして 「お前が落としたのはiPhoneか。それともガラケーか」 と龍之介の脳に直接語りかけて来た。 迷った。 カッパは手に何かを持っていた。 落としたはずの龍之介のガラケーがジップロックに入っている。 「あの、えーiPhoneです」 カッパは悲しそうにうつむいて水の中へもぐっていった。 「わーすみません、まちがえました、僕が落としたのはそのガラケーです!」 カッパは戻って来てさらに語りかけた。 「お前はリア充か。それともキモオタか」 「選択肢はその2つしかないんですか」 「・・・・・・・・・・」 「・・・リア充です」 カッパは悲しそうに水にもぐっていった。 「わーごめんなさい、どっちかっていうと僕はキモオタです!」 カッパは再び戻って来るとすーっと橋の方に寄って来て ジップロックを差し出した。 龍之介はおっかなびっくり受け取って言った。 「正直に答えたから、なにかごほうびとかないんですか」 また悲しそうな顔ですーっと去って行った。 「ああ、変なこと言ってごめんなさい。拾ってくれてありがとうございました!」 カッパはちょっと振り返ると軽くうなずいて龍之介の視界から消えた。 はっと我に返り、龍之介はジップロックの口を開き 中の電話を取り出した。濡れていない。 「やった」 着信はやはりルミルミからで 「日曜日、OKです」とあった。 ただし行き先は次のボランティア先の 介護施設との指定があった。 この際どこでもよい。 ガリガリ君でも食いながら帰ろうかな〜と思った。 無意識に出た鼻歌はなぜか西野カナの 「会いたくて会いたくて」だった。 簡単にウキウキ気分になれてしまうのもまた、 学生の本分であるのだ。 おしまい。
by mitakapurin
| 2014-08-17 00:51
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